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京大総長選 その意味するもの

いくら天下の京大といっても、時代の流れに背を向けるわけにはいかなかったようです。

京都大は23日、次期(第25代)総長に、研究・財務担当理事の松本紘(ひろし)副学長(65)を選んだ。任期は10月1日から6年間で、再選はない。教育研究における国境を越えた大学間の激しい競争や、「地盤沈下」が指摘される京都、関西の現状の中で、「自由の学風」など京大らしさを生かした大学運営が課題となる。

尾池和夫総長(67)の任期満了に伴う法人化後、初めての総長選考。学内の部局代表や学外委員などで構成する総長選考会議が、教職員による投票で過半数を得た松本副学長から、この日あらためて抱負を聞き、満場一致で次期総長に選んだ。

松本副学長は京大工学部卒。同助手などを経て1987年から超高層電波研究センター教授。センター長、生存圏研究所長などを歴任し、2005年10月から現職。専門は宇宙プラズマ物理学で宇宙太陽発電研究の第一人者として知られる。

理事として産学連携や競争的研究資金の獲得、知財の確立などを推進、昨年からはiPS細胞研究の基盤整備も担当し、iPS研究センター設立の中心となった。

学部・研究科長ではなく研究所長出身の総長は、京大111年の歴史で初めて。

選出後の会見で松本副学長は「自由の学風、自学自修など京大の伝統を守りつつ、革新と創造で元気の出せる大学にしたい」と抱負を述べた。

http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2008052400033&genre=G2&area=K00

京都大(京都市左京区)は23日、学内外の識者による総長選考会議を開き、新しい総長に松本紘(ひろし)理事・副学長(65)=宇宙プラズマ物理学=を正式に選んだ。任期は10月1日から6年間。

教職員による予備投票(8〜15日)をもとに同会議が決めた候補者6人について、22日に教授らによる学内投票を実施。1回目の投票で過半数を得た候補がいなかったため、上位2人の決選投票をし、829票の松本氏が605票の成宮周・大学院医学研究科教授(59)を上回った。この結果をもとに同会議が23日、次期総長を選んだ。

記者会見した松本氏は、理事・副学長として山中伸弥教授らが開発した万能細胞(iPS細胞)研究の拠点づくりなどに努めたことにふれ、「『次の山中』となる若手研究者らに、いい成果を出せば大学本部が放っておかないことを示したい」と話した。優れた若手研究者が京大に残れるように「できれば100人くらい、助教や准教授相当の研究員になれる仕組みをつくりたい」とも語った。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200805230086.html

研究・財務担当というのが、いかにも国立大学法人化の時代の総長という感じです。カネ勘定に明るく、カネ(研究費)を取ってこられる実務にたけたトップを京大も必要としているということでしょう。親方日の丸時代は学府の象徴的存在の要素も多分にあったかと思うのですが、それよりもマネジメントのプロを求めているのだと解釈できます。それなら、元社長だとか、かならずしも教授じゃなくてもいいような気もしますが、それはひとまずおきます。

他にもいくつかの点を挙げることができます。

今回の選挙で学内での政治力があることは一定、証明されたわけです。今後は、学外でもその政治力を発揮することが求められるということでしょう。

では、政治力とはなにか。前述しましたが、要するに研究費を取ってくることだと思います。それは国からでもいいし、産学連携という形でもかまいません。昨年、山形大学学長に元文部科学省事務次官が騒動の末に就任して話題となりましたが、学外での政治力という点で同じ文脈だという気がします。

カネを集めた結果、研究費が潤沢になれば、当然優れた研究者が集まります。上記の朝日新聞にあるように万能細胞の山中教授のような人を招聘することも可能でしょう。この路線に異論はありません。ただ、気になるのは、山中教授の場合は京大出身でないわけで、ノーベル賞受賞者を多数輩出してきたこれまでの研究者養成自前路線からの転換に踏み込んだものなのかどうかです。これはちょっと記事を読んだだけではわかりません。

もう一点は、京都新聞が「学部・研究科長ではなく研究所長出身の総長は初」と書いている点です。研究所出身というより、学部長でない点と副学長からのいわば昇格だという点が挙げられると思います。

京大は(というより京都にある他の私大もですが)学部自治の性格がつよく、大学は学部の集合体的な組織です。それが今回、学部出身者をおさえて副学長が学長に選ばれたというのは、大学のガバナンスからみても本部の統制を強めていることの表れのような気がします。上記の朝日記事で松本氏が「大学本部が」とわざわざ本部をつけて言及している点が興味深いです。

また、総長レースといった点からみれば、学部長をつとめるより、副学長として大学全体の実務をおぼえていったほうが近道ではないかともいえそうです。まあ、企業ではいずれもあたりまえのことではあります。

就任の抱負で「できれば100人くらい、助教や准教授相当の研究員になれる仕組みをつくりたい」と具体的な数字を挙げている点もおもしろい。政治の世界で流行しているマニフェストの影響なのでしょうか。

最後に、今回からは総長選挙の仕組みもかわったようです。興味深いのは、松本氏が医学系の教授をおさえて選出されていることです。京大の総長選では医学部が一定のプレゼンスをもっており、過去には何人か総長が選ばれています。今回の仕組みの変更は、既存の学内パワーバランスに変更を迫るものなのでしょうか。これはもうすこし調べたいと思います。

京大といえども会社的なガバナンス、マネジメントを取り入れていかないと競争に打ち勝っていけません。それが松本氏の総長就任につながっているということでしょう。京都新聞にもありますが、今後は京大の「自由の学風」とどう両立させていくかが、ポイントのひとつとなりそうです。

追記20080525

以下を参考にしてすこし勉強しました。

http://www.kyoto-u.com/lounge/discuss/html/200502/05020077.html

京大総長選は医に限らず理系優位だということですな。

現職の尾池氏も副学長経験者なんですね。副学長→総長は松本氏に限ったことでなく、規定路線なんだということでしょうか。蛇足ですが、「副総長」とはいわないんですね。勉強になります。