ぼちぼち そこそこ

脱力と諦観でつづるおっさんの日常

大野病院事件の裏にひそむもの

私なんぞが全国ニュースにコメントするのもなんだかとは思ったんですが。

福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医(40)=休職中=の判決公判で、福島地裁(鈴木信行裁判長)は20日、無罪(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。(8月20日の京都新聞夕刊)

事故は医師の裁量の結果かそれともミスなのか。もしミスだとして、それを問うのは刑事裁判でなのか、それとも民事でなのか。この裁判のキーワードは裁量、ミスと、刑事、民事であるように思います。

今回の判決の評価は差し控えます。ただ、記事の中で、違和感があったコメントがあります。日本産科婦人科学会の常務理事が「医療をよくしらない警察が捜査を行ったことが問題」と言っていることです。

この「専門的なことはわれわれ医師にしかわからない」といった考えが医療の密室性、閉鎖性を生んでいるのであり、患者の医療に対する不信感の原因の大部分になっていることにこの常務理事は気づいていないのでしょうか。この理事は、仮に有罪判決が出た場合は「医療をよく知らない司法が裁判を行ったことが問題」とコメントするのでしょうか。

この密室性の中では、医師はたとえミスがあったとしてもいかようにもできます。今回の事件がそうだというのではありませんが、ミスを「医師の裁量の範囲内」にすることもできるでしょう。

そんな中で民事裁判で医師のミスを患者が立証することはなかなか大変です。そもそも証拠集めが難しい。結果として裁判に勝てそうでなければ弁護士も乗り気でなくなるでしょう。

こういった問題に対して計画されているのが、医療紛争を判定する専門家による第三者委員会です。しかし専門家=業界の仲間内ということではないのでしょうか。医療界に公平な判断が期待できるのでしょうか。

今回の裁判でいえば、裁量の範囲内だとして無罪判決が出た医師に関して、ミスだとして逮捕、起訴されたことはお気の毒に思います。でもその裏には、医療界の密室性によって、本来はミスなのに裁量の範囲内だとされて泣き寝入りしてしまい、刑事裁判どころか民事にまでも行き着かなかった膨大な数の患者がいることを忘れてはならないでしょう。