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脱力と諦観でつづるおっさんの日常

『歩くまち・京都』総合交通戦略に関する一考察

当ブログでも言及してきた「歩くまち・京都」総合交通戦略策定審議会の議論がひとつの節目を迎えているようです。

京都市では,「人が主役の魅力あるまちづくり」を推進するため,健康,環境,観光などの幅広い観点から,公共交通優先の「歩いて楽しいまち」の実現を目指しています。現在,交通政策マスタープラン「『歩くまち・京都』総合交通戦略」を今年の夏を目途に策定するため,「歩くまち・京都」総合交通戦略策定審議会及び3つの検討部会を設置しています。
これまで,審議会及び各検討部会を延べ21回開催し,鉄道・バスの公共交通ネットワークの構築,歩くことが楽しくなる歩行者空間の創造や公共交通優先のライフスタイルへの転換など,まちの主役を「クルマ」から「人」に転換していくことについて,多くの議論を重ねてきました。
この度,日本で初めて制定する歩行者優先憲章(仮称)と「歩くまち・京都」総合交通戦略中間とりまとめについて,市民の皆様の御意見を募集します。特に,歩行者優先憲章(仮称)の名称については,親しみのあるものとなるよう,多くの御意見をお待ちしています。
今後,いただいた皆様の御意見を踏まえて,歩行者優先憲章(仮称)を制定し,「歩くまち・京都」総合交通戦略を策定します。
歩行者優先憲章(仮称)及び 「歩くまち・京都」総合交通戦略中間とりまとめ への意見募集について

この中で出てくる『「歩くまち・京都」総合交通戦略の目標』という一文が「歩くまち」に関する京都市の政策の性格をよく反映しているような感じですので、私なりに検討、分析(評価ではありません)してみました。

「歩くまち・京都」総合交通戦略の目標
脱「クルマ社会」を目指した取組や,新たな公共交通のネットワークにおける「人が主役の魅力あるまちづくり」を推進し,地域主権時代の全国のモデルとなる,公共交通優先の「歩いて楽しいまち」の実現を目指します。(中間とりまとめ概要版より)

まず、この一文からキーワードを抽出してみます。
1.歩くまち
戦略の本題ですから、そりゃ必要でしょう。
2.脱「クルマ社会」
クルマを捨てて歩こうということでしょう。
3.公共交通優先
近くに行く時は歩きましょう。遠くにいくときはクルマではなく、公共交通機関を使いましょう、ということでしょう。
異論もあるかもしれませんが、このうち「2」「3」については京都市の重要施策もしくは懸案と重なっているのではないかと考えます。
「2」はいうまでもなく、温暖化防止です。1997年に京都市で温暖化防止の国際会議が開かれて以来、京都市の最重要施策が温暖化防止(もう少し広くいうなら環境問題)だというのは衆目の一致するところです。
「3」は一見、温暖化防止と関係あるようにみえるかもしれませんが、おそらくそれ以上に関連があるのは地下鉄をはじめとする京都市営交通の赤字解消問題でしょう。公共交通をもっと利用してもらい赤字解消の一助にしていくという意図があるように思います。
要するに『「歩くまち・京都」総合交通戦略』の背景にあるメーンテーマは、温暖化防止と市営交通赤字対策だということでしょう。どちらも重要な問題です。
ただ、そう考えたときに矛盾というかいろいろ問題点が浮かび上がってくるような気がします。以下、箇条書きにしていきます。
1.自転車の扱い
「歩くまち」の考え方は、「歩く+公共交通機関利用」です。とにかくある程度長距離の移動には公共交通機関を使ってほしいということのようです。これは市営交通機関赤字対策を意識したものではないかと思います。過去エントリー「敵の敵は友ならず 自転車政策」でも書きましたが、そうすると、長距離移動において公共交通と自転車は競合関係になってきます。そのあたりを意識してか、中間とりまとめ概要版では、

その一方で,自転車は私的交通の一種(パーソナルモビリティ)であることから,歩行者が集中する都心などにおいては,乗り入れの制限や駐輪に対する適切なコスト負担が求められるため,これらについて検討します。

といったふうに自転車に対する制限を打ち出しています。
しかし、バスといえども二酸化炭素は出るわけですから、自転車のほうが本来、温暖化防止という点では好ましい移動手段のはずです。そのへんどうなのかな、と。
2.観光との兼ね合い
観光は温暖化防止や市営交通赤字対策と並ぶ京都市の重要テーマです。「歩くまち」は観光にとってプラスに働く半面、脱クルマとなると観光に及ぼす影響が大きいのではないかと思います。京都を訪れる観光客のいくらかは中京圏からの人たちです。トヨタの本社があることでもわかるとおり、中京圏はクルマ社会ですから、彼らは当然のようにクルマに乗って京都にやってきて、市内をクルマで見物してまわります。こういった人たちをどうするのか。ロードプライシングを実施したらこういった観光客は京都から離れて行ってしまうのではないか。まあ、普通に考えて、こういった疑問が浮かびます。
3.「脱クルマ」のイデオロギー性
「歩くまち」に異論はないのですが、「脱クルマ社会」と言われてしまうと正直ちょっと引いてしまうところがあります。コンビニの深夜営業規制問題(事実上とん挫したようですが)でもそうですが、京都市(というか門川市長)は市民のライフスタイル変革に熱心なようです。コンビニ規制の場合は背景に「人間の基本は早寝、早起き」みたいなところがありました。脱クルマにもそれに似たにおいを感じます。大きなところで温暖化防止を推進していかなくてはならないというのは理解します。でも、あんまり特定の価値観を市民に押し付けるのはどうかなと思います。ここのところは私の意見です。(末尾に参考資料)
4.優先順位の変動可能性
前述したとおり、「歩くまち」の背景にあるのは温暖化防止と市営交通赤字対策です。そしてその優先順位は現状では温暖化防止が先で赤字対策がその次だと思います。ただし、来年にかけて地下鉄の巨額の累積債務問題が浮上してくると、この順番は今後、入れ替わる可能性もあるのではないでしょうか。そうなると「1」で触れた自転車の位置付けも変わってくることが考えられます。
過去エントリー
イケてるのか 京都市営地下鉄経営健全化計画案(骨子)温暖化防止+景観保全

平成20年6月17日門川市長記者会見(コンビニ深夜営業規制)
記者  
政府の環境モデル都市に立候補した京都市の提案の中には,コンビニエンスストアの深夜営業の見直しなど市民のライフスタイルの変更を求めるような内容が盛り込まれている。環境省の鴨下環境大臣も「基本的に歓迎すべきことで,全国的に広がってほしい」といったコメントを出されている。一方で,深夜帯に働く人にとっては規制になるという声もあり,これから議論が展開していくと思うが,この政策の実現に向けての市長の意気込み,今後の見通しは。
市長  
COP3開催都市,京都議定書誕生の地として,京都市は全国で初めて地球温暖化対策に特化した条例を制定し,国の基準を上まわる10%のCO₂削減目標を設定するなど,今日まで努力を積み重ねてきました。そして現在,全国トップクラスとなる5.6%の削減を記録しています。これは,企業に対して削減目標の提出を求め,その報告書等を公開していること,また,市民ぐるみで様々な取組をしてきた成果であると考えております。
本市は,国に対して環境モデル都市の申請を行っており,その内容はホームページで全て公開していますが,私は企業の経営の在り方も,市民生活も,行政の在り方も,あらゆることを総動員しなければ,2030年までにCO₂50%削減,2050年までに大都市で初めての「カーボン・ゼロ都市」という目標は達成できないと考えております。地球環境問題は,国民,そして市民一人一人が,自分の問題として捉え,例えば夜型から昼型へなど生活スタイルを変えていくことや,公共交通優先の歩くまち,ごみの減量など,様々なことに取り組む必要があります。そうした取組の一つとして,市民の間にも過去から様々な議論があるコンビニエンスストアの深夜営業の見直しについて,果敢に挑戦していきたい。行政が主導するのではなく,市民会議を設置し,市民の皆様と多様な議論をしながら,進めていきたいと考えております。
この素晴らしい地球環境を守っていかなければならないこと,CO₂を具体的に確実に削減していかなければならないことが大きな目標です。その目標に向かって全力投球していくステップとして,こうしたことを論議し,まずは,自主的な規制として進めていこうという決意を表したものですが,これから十分に市民的議論を尽くすべき課題の一つであります。
http://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000042797.html